あっさり風味が悪いとは言わないけど

ダークナイト』を観たんです。
とにかく具沢山の映画でした。肉、野菜はもちろん、今日はアワビもらったからそれも入れましたよてな感じで。
3時間近い長尺なんですが、それでも退屈せずに最後まで観れたし、思うこと多く観てよかったとは思います。
しかし、世間の評判にお前も同感だろ?と言われたら、そうじゃないんですよ。


この映画を評する時、今回はジョーカーが主役でバットマンは添え物と言われることが多いじゃないですか。
もう一人のヴィランにいたっては、中盤以降の展開をバラさないって配慮もあるんだろうけど、無視してるでしょ。
オレはバットマンが主役のバットマン映画として受け止めましたよ。
クリストファー・ノーラン版のバットマンって立ち位置が半端だったじゃないですか。
犯罪者とは言い切れないけど、英雄とも言い難い。派手で影響もデカイが日陰者。
客観的に見てそうだし、劇中でもしつこいくらいそう言ってますわな。
また、ブルース・ウェインバットマンやってるのか、その逆なのかも曖昧だったわけですよ。
そんなバットマンが、ついに白黒決める時がきた、きてしまったってのが今回の映画ですよ。
その結果、なぜタイトルが「バットマン〜」ではなく『ダークナイト』なのかが分かるってことじゃないですか。
そして思いましたよ。前作と合わせて5時間、やーっとビギンズが終わったのね。長かったと。
バットマン・ビギンズ』が誕生篇なら今回は思春期ですよ。ほら、挫折も味わったし。
もし次回があるのなら、描かれるのは開き直ったオヤジバットマン、つまり普通思い浮かべる姿のバットマンですよ。
そうなると演じるのはクリスチャン・ベールじゃ違いますね。ラッセル・クロウとかがイイね。
いやもうリミット解除して船越英一郎!『その男、副署長』のノリで!...すいません、はしゃぎすぎでした。
とにかく、今回の作品はバットマンが主役の物語として成立していたと思うんですよ。


バットマンが主役として存在していたと感じたのにはジョーカーの描写にも理由があるんですよ。
たしかにカッコよかった。特にえんぴつ手品の場面は最高だった。
場所柄をわきまえない手品って最高ですよね。完全に相手をバカにしてて。
でも、世間で言われてるほど印象深いキャラクターとは思えなかったんですよ。
金にも名誉にも興味のない、ただ混乱を求めて行動する虚無的なキャラクターってのは、決して珍しいものでもない。
怪獣に例えると、植物怪獣ってのは爬虫類をモチーフにした怪獣に比べ、数は圧倒的に少ないです。
でもグリーンモンスビオランテサボテンダー、アストロモンスとパッと思いつくだけでこれだけ挙げられるくらいには数がいるんですよ。
それと同じことで、唯一無二のものではなく、数あるものの1つとしてしか味わえないんです。
そういう目で見ると、上等の味わいではあるんだけど決定打に欠ける。どの点からいっても中途半端だったんですよ。
オレの中で今回のジョーカーとの比較対象になったのは、まずジャック・ニコルソンのジョーカー。
後は『ファイトクラブタイラー・ダーデン、『セブン』のジョン・ドー、『ウルトラマンエースヤプール人。
そしてトドメが『ダーティハリー』のサソリ。これは仕方ないですよ。だってこの映画『ダーティハリー』じゃん。
以上のキャラが持つ、残忍、冷酷、狡猾、愉快、不可解、純粋といった要素を全てもつ代わりに、どれも比べて弱い。
ワケが分からない、とりつくシマがないキャラというのは、カッコよさと不可解さを保つために有効な手段だけど、一方で踏み込んだ描写もできなくなるんで味わいに欠けるってことですよ。
ホラ、例えば同じ都市が破壊されるにしても、津波地震で破壊されるのと、ゴジラキングギドラが大暴れして破壊されるのでは、ケレン味という点で後者に軍配あがるでしょ。
いや、たしかにナイフでかっさばいたりバズーカ撃ったり派手だけど、それでは足りない。
行動のイチイチが洗練されてるんだけど、野蛮な部分があまりにもないんでコクがない。
露骨な言い方をすれば、今回のジョーカーでは、勃起はするけど射精まではいかなかったんですよ。
刺激的なはずのジョーカーがどうにも薄味だからという、なんとも消極的な理由でオレは「バットマンが主役」と受けとめたんですよ。


こう思った原因って、本来荒唐無稽なものであるコミックキャラクターを、妙にリアリズム重視で描いたため美点が相殺されてしまったってことなんですかね。
いや違う。オレがそんな難しいこと考えるはずがない。なら理由は一つですよ。
バスジャックをやってない!
これですね。サソリっぽい立ち位置にいるんだから責任持ってバスジャックしろよ!
「漕〜げ漕げ漕げよ〜、ボート漕げよ〜♪」と歌うジョーカー。皆が見たかったのはこれのはずなんだよ!
ジョン・ドーはなにもしてないが、タイラー・ダーデンはヌンチャク捌きを披露したし、ヤプール人は「あなたは私をしーんじなさい、ホラ信じなさい♪」と踊り付きで熱唱しましたよ!
今どき純粋悪気取るんなら、バスジャックして一芸披露しないと。今後これは義務化していただきたいもんですね。