イラクの黙示録

ハート・ロッカー』を観たんですよ。
鑑賞前に持っていた印象は「ギットギトの脂映画であろう」でした。
3度のメシより爆弾処理!山盛り爆弾はエレクチオンの素!ああ、危険を買う男!といった感じでありました。
緊張感あふれる冒頭は、それを裏付けるかのようであります。
しかし、主人公ジェームズが登場し、その人となりが描かれていくにつれ味わいが変わってくる。
鑑賞後、頭に浮かんだのは、事前には考えもしなかったタイトル『地獄の黙示録』でありました。


どこが『地獄の黙示録』なのかと言いますとね、まずジェームズ登場の場面ですよ。
窓を塞いだまま光を取り入れず、大音量のメタルの中、眠るでもなくただ横たわるジェームズ。
これを見た時、オレはすぐにウィラードの姿を思い出しましたね。あの『ジ・エンド』が流れるオープニングですよ。
性格的にもウィラードに近いものを感じます。カラッポじゃないけど、でもどこか空虚なものを感じるんですよ。
「近い」とか「どこか」とか緩衝材入りの物言いなのはウィラードほどではないからであります。
ウィラードが抱える、暗いもの、空虚なもの、獰猛なものを全て持っているけど、一方で神話的とか哲学的と言った言葉で現される、つまり仰々しいものを落として、オレらに近い味わいに仕上げたのが、ジェームズって人物なんだと思うんですよ。
この人、面倒なものを抱えているけど、腑打つの人でもあるんですね。
これは映画全体から感じることでもあります。
大げさなものを抜きとり、地に足がついた形で作った現代版『地獄の黙示録』ってのがオレの感想です。


さらに言えば、なんか70年代の映画みたいなんですよ。
とにかくぶっきらぼうな作りで、キャラクター造形にしろ、個々のエピソードにしろブツ切りじゃないですか。
唐突に放り投げてきて、説明はそこそこで、すぐ次の話。みなは言わんよ。ちったー考えんさいやといった具合。
また話のオチがいちいちやるせないモノで、爆弾処理には成功しても、それ以外は得るものナシって話ばかり。
ベッカム”のエピソードで、いわゆるハリウッド映画的な劇的な展開を見せたと思ったら、〆はバーさんの罵声。
どころか、ラストでさらに苦い味わいに。ああ、空回り。
ついにきました人間爆弾!の話も、ガチャガチャしたカッコウの悪さを見せた挙句にアレですからね。
やるせなさなんですよ。この映画から感じるのって。ビービー泣きわめくんじゃなくて、死ぬほど重いタメ息ですよ。
タメ息つくけど、やっぱ戦場にいるんですよ。なんで?と聞くと「さあね」と答えられてしまうと思う。
そんなもんだから、オレもようマトメきらんです。なんか言葉にできん味わいなんですよ。


今の気分を音楽に例えると『ジャングル黒べえ』のつもりでいたら『元祖天才バカボンの春』が流れてきた。
そんな感じであります。