娯楽の煮しめ キック・アス

キック・アス』を観ましたよ。すんごい面白かった。

とにかくヒット・ガールがスゴイですよ。作品の主役はキック・アスことデイヴなんですが、作品の顔はと言えば、間違いなく彼女でしょ。
ヒット・ガールって、凄くキュートでシャレたデザインじゃないですか。『ぱーぷる☆ミンディ』とかのタイトルで、なかよし、りぼんあたりの少女漫画誌で連載(当然アニメ化も狙う)されていてもおかしくない。それがバンバン撃って、ビョンビョン飛び回り、ザックザクと切り刻む!獅子奮迅の活躍。もうポップでキャッチーな殺戮にオレ大喜び。危うくナナナ〜と一緒に歌うとこだった。


しかし、この映画のスゴイところは、その先があるとこですよ。
とにかく陰惨。ヒット・ガール初登場の場面、ゴロツキ連中をモツ鍋の具にするのはイイとしても、悲鳴をあげて逃げる女を無言で追い詰め、間接的な描写とはいえ、明らかにズンバラリンとぶった斬っているってのは、完全に逸脱している。これを観ていて、オレが思い出したのは『殺し屋1』。あの殺伐具合ですよ。どれほどキュートな装いをしていても、ヒット・ガールはアーバンスタイルのチャイルド・ソルジャーでしかないんですね。この種のキャラクターは他にもいるが、なにせヒット・ガールは小学生の女の子。キラーマシンとして作り上げられることのエグ味がより際だっております。


そして娘をそう仕立て上げたビッグ・ダディですよ。
このイカレ放題の親父にニコラス・ケイジ。慧眼ですよ。ケイジ先生は一生この路線でいって欲しい。しかし、観ていて思ったんですが、ビッグ・ダディとヒット・ガールってホントに親子なんだろか?いや、実の娘にあんなことさせるワケがない…というんじゃないです。愛した女との間できたとか子だとか、過去のことを語るワリに写真の一枚もないじゃないですか。あるのはダディの書くコミック調のイラストだけで。どうにも説得力がない。どっかの子供さらってきて娘と言い張ってるだけだったりして。どうやら原作ではその辺がイロイロあるそうで、明日にでも原作買ってこよう。


一応の主人公である、キック・アスことデイヴ。
こいつはこいつでけっこうな代物なんですがね。だって実は『タクシードライバー』のトラヴィスですよ。こいつのやることって。だからこそ彼は部屋で「You talkin to me ?」とつぶやくんですよ。少女の出現で運命が変わるというのも共通しております。ただ、デイヴの抱えるトラヴィスッ気はお気楽なもので、彼女ができれば薄まる程度のもん。最初こそオッパイ触るも手袋ごしなんてザマでしたが、しまいにゃ店の裏でさあ。トラヴィスい奴は駅弁ファックなんかしないってんだよ!正常位で、そんでも上手く入らずあたふたしてるウチに萎えちゃうのがトラヴィスい人間のすることだ!いや、オレの話じゃないってば!
まあデイヴはツメ切りみたいなもんで、ミートチョッパーで肉骨粉であるキラー親子の前では霞んでしまいますよ。でも彼がいるから、客観性が生まれてるし、また燃えるヒーローものとして成立しているんですけどね。


この『キック・アス』は娯楽要素の大半が詰まっております。キュートで、激しくて、残忍で、無常で、コミカルで、ラストはカタルシスも得られ、文学的な深みすらある。無いのはエロぐらいなもんか。
バットマン』や「スパイダーマン』が何年もかけてやっていたことを、本作1本でやってしまった。大傑作でした。