ジュコーを舐めるな

君よ憤怒の河を渉れ」を観たんです。
主演は高倉健健さんが冤罪を晴らすため逃亡と戦いを繰り返すという「逃亡者」を激しくしたような作品。
助演は原田芳雄なんですが、これがメチャクチャかっこいい。
大珍妙作「ハンテッド」でも無駄にかっこよかったけど、本作ではストレートに決めてます。
脇役陣も良かった。田中邦衛が期待通りの役で出演。期待通りってのは、つまりバカ役です。
劇中、原田芳雄が邦衛の顔写真を見て「とぼけた顔しやがって」と言うんですが、そこ言わなくてもイイじゃない。
そこは皆分かってるから。ダメ押しにも程があるよな。


ところで、作品にはそれぞれ、その作品なりの常識レベルがあるじゃないですか。
この映画の常識レベルは「太陽にほえろ!」以上「西部警察」未満。アクションものとしては一般的なレベル。
多少突飛な部分もあるけど、シリアスなアクションものとして捉えるに十分な状態です。
しかし中盤、唐突にゲージを振り切る場面があるんです。
新宿に現れた高倉健が、警察の包囲網の中、全く身動きがとれなくなるんです。
そこで健さんにベタぼれの女(中野良子)が救出に向かうんですよ。
オレは車出すんだと思ってました。まだカーチェイスが無かったもんね。今からそれかと。
そしたら騎馬軍団で激走でした。
軍団ってことは1頭2頭じゃないよ。確認できただけで7頭はいたね。
それが健さんを救出。でもって検問を粉砕ですからね。繰り返しますが舞台は新宿ですよ。
西部警察」どころか「花のあすか組」(TV版)。ビッグバン・プログレスですよ。
あまりのことに現場から報告を受けた警官が「馬ァ?!」って言うんですが、そりゃオレの台詞だって。
この後はまた常識レベルが元に戻るんですが、おかげでしばらくの間、頭が作品世界に戻らなかった。


この作品、同名の原作があるんですよ。著者は西村寿行。オレは未読です。
気になるのは、この唐突な展開が映画版スタッフによるものなのか、それとも原作にあるものなのかってことです。
そりゃ普通に考えりゃ映画オリジナルですよ。映像向きにケレン味を増したんだろうって。
でも、そう言い切れないのが寿行世界。この世界じゃ常識レベルがいきなり吹き飛ぶなんて、当たり前ですから。
例えば「旅券のない犬」。
飼主と死別した犬ジュウベエが、本能からか愛情からか、残された主の息子に会うためアフリカから日本に向かう。
息子の方も、家族同然のジュウベエを求めて旅に出る。彼らは再会できるのだろうか...
このタイトルにこの内容、下手すりゃ最近の邦画かってくらい「泣かせ」っぽい話でしょ。
でもCIAとKGBが出てくんですよ。生物兵器の争奪戦に巻き込まれるんです。イルザみたいな拷問人も登場。
ありえないでしょう?こういうのって読者が「ここでKGBが出たりすんの」っていう冗談でやることですよ。
もういっちょ出すと「黄金の犬」。
猟犬ゴロが主人を求めて、北海道から東京を目指す物語。基本は「旅券のない犬」と同じ。
これは序盤から犯罪に巻き込まれてっていう描写があるんで、いきなりの飛躍はないんです。
でもそれは、純粋な犬と醜い人間の対比ってレベルの話だったんですよ。
でも、第2部からいきなりおかしくなる。まず中国拳法の達人出てくるから。それも武道家というより怪人なのが。
その達人、中盤でゴロ捕獲のため、町を1つ占拠するんですよ。人口3000人の町警官含めて完全制圧。
ホラ、もうおかしいでしょ?相手は犬ですよ?その制圧の方法が絶句するやり口なんですよ。
子供を人質にとるんです。ここまではいい。これが動物ものだってことを忘れれば、むしろ普通の展開。
でも、その子供を首だけ出して生埋めにして、逆らえば首刎ねるぞという「地獄のモーテル」拡大版てな手法とられると、オレ別の本読んでるのか?と言葉を失うんです。
その後も、現代だってのに城攻めに巻き込まれたりと、犬ものから遠くにきたよなあって展開に発展するんです。
そういう世界なんですよ。寿行世界は。
それを考えると、騎馬軍団激走はケレン味増したんじゃなくって、いくらんなんでもそりゃねえよ!と抑えた結果だったんだろうか。
そうかもしれない。だって高倉健主演作だから。これがソニー千葉主演なら話は別ですが。