パプリカの爆弾

「パプリカ」を読んだんです。
前に「魔獣狩り」「ゴルディアスの結び目」と比べたんですが、実際に読んでみると味わいはかなり違う。
他人の精神に潜り込むんだから、サイコ・ダイビングではあるけど、題材は「夢」であって「精神世界」じゃなかった。
この2つは似てるけど、やっぱ違うもの。あえて言うなら、こりゃ「エルム街の悪夢」ですね。
ホラーではないので目標ポイントは違うし、フレディの様に特権を持ったやつも出てこないけど。
どう違うのかと言うと、サイコ・ダイビングものは精神世界と現実世界の区別はハッキリしてますな。
少なくとも読者には区別ができるように書いてある。
でも、夢ものの場合はそうもいかない。必ずと言っていいくらい、夢の中の夢ってのが出てきますから。
夢から覚めた!と思ったら、覚めたという夢を見てるだけで、まだグッスリと言うやつ。
これが1回でも出てくると話は一気にややこしくなる。
下手をすると、話の全てが誰かの見てる夢って可能性でてきますからのう。
その誰かってのは主人公とは限らない。脇役の誰かかもしれないし、作中には一切登場しない人物かもしれない。
そういや、「エルム街の悪夢/ザ・リアル・ナイトメア」もその辺を踏まえた話でしたね。
原題の「ウェス・クレイブンズ・ナイトメア」は、単にクレイブンが復帰しましたよって意味かと思えば、実はねえって話だし。
「パプリカ」でも当然出てくるんですね。「夢の中の夢」は。
どこでどういう風にってのは、ネタバレにも程があるんで黙ってますけど。
結果どうだったかと言えば、面白かった。さすが筒井康隆
あ、ギャグもありますよ。
この危機を切りぬけるには、オレ達ビンビン作戦だ!え、そんな人目が...でも、やるんだよ!なんて場面とか。


以下は本筋とは関係ないけど笑った部分。
主人公である千葉敦子は29歳の精神科医。でも治療の際は、パプリカという少女として現れる。
こうくれば、普通は夢の中で変身してると思うじゃないですか。29歳の人間が、少女に見えるってのは無理がある。
でも、実はただの変装だったんですね。メイク変えただけの。
敦子は童顔なんて描写はナシ。そこを変装ですます豪快さに笑った。
次に笑ったのが、敦子=パプリカが他人の夢に入る最初の場面。
戦場の夢に入り込むんですが、これがどうも007のワンシーンらしい。その手の映画は観たことが無い敦子にもなんとなく分かる。
すると船だか竜だかよく分からんものが襲ってくるんですよ。
007ときてコレですよ。もう分かるじゃないですか。オレ達には。ははーん、「ドクター・ノオ」ねって。
そうしたら、案の定でした。オタクってこういう時だけ有利だよナ。
その後「ドクター・モローの島」も出てきます。
最後、ココが一番どうかしてると思ったポイントなんですが、敦子さん妙なことに詳しすぎ。
話の途中で、現実と夢の境界が崩れ、想像上の怪物が町で暴れまわるようになるんです。
そのうちに、人間と牛と羊の3つの頭を持った巨人がドラゴンに乗っているってやつが出てくるんですね。
こんなのが目の前に現れたら、言葉を発したとしても、普通は「怪物よ」ぐらいでしょう。精々が「悪魔よ」か。
なのに敦子さんったら「アスモデよ」ですよ。
アスモデ。アスモデウスとも言う、ある方面限定で有名な悪魔ですね。でも普通は知らないよ、こんなもの。
なんで知ってんだよ。調べたとかでなく、反射的に名前が出るんだよ。
その後もどうかしていて、敦子がデカイ鳥に襲われる場面が出てくる。
なんだアレはと騒ぐまわりをよそに、敦子さんたら「アクババです」とあっさり看破。
アクババって何だよ?調べてみたら、トルコのハゲタカ妖怪だそうで。おいおい、これは言い訳がきかん。
言葉を変えて言ってみるとですね、29歳の女性がパッと見ただけで「アレはシュミット式バックブリーカーよ」なんて言ったら、ええっと思うじゃないですか。
でもまあ、それはイイとしましょう。そういう人だっていないとは言えない。
でも、その後に「アレは死神式エクスプロイダー」なんて言ったら、ちょっと待ってくれとなりますわな。
これはそういうことです。アスモデだのアクババだのを知ってるってのは、教養とは別の話ですってば。
みうらじゅんが言ってますわな。「ものを知らないのも非常識だが、知りすぎも非常識」と。
敦子さん、明らかに非常識のレベル。筒井先生やりすぎ。読んでて爆笑しました。
映画でもこの辺が反映されてるといいなあ。