汝、この門を潜る者、一切の希望を捨てよ

失楽園」を読んでるんです。渡辺淳一じゃなくて、ミルトンの方ですよ。
前から興味はあったけど、叙事詩!文学!清教徒!という、しかめっつらしさ満載な感じに、尻込みしてたんです。
図書館で見つけたんで、手にとってみると岩波文庫だよ。堅苦しさ上乗せですよ。
でもここは一つ挑戦してみよう。どうせヒマだし、と借りてきたんですね。


最初の場面で昭和枯れすすき並に落ち込んでる堕天使達を、サタンが叱咤激励するんです。
「一敗くらいでなんだっての!」とアジるその姿は、空手形ぶりも含めてアントニオ猪木のよう。サタン=猪木?!
となると、神は力道山?大天使ミカエルは馬場?惑わされるアダムとイブは猪木イズムの犠牲者達か?
でも、さらに読み進めると、サタンは後に分別あるところも見せるんですね。じゃあ猪木とは違うか。
やっぱ猪木の方が上手だ。おおアントン、汝は悪魔をも上回る悪魔!
次は、サタンのアジで息を吹き返した堕天使達が、パンデモニウムで大会議を開く場面。ここも面白い。
会議の場面だから、当然違った意見のぶつけ合いになるため、キャラの区別がはっきりしてるんです。
武闘派のモロク、卑屈なべりアル、ちゃっかりマンモン、議長ベルゼブブといった具合に。
この会議の結果、とりあえずエデンの様子を探ろうとなる。偵察だから目立たんよう単身で赴かねばならん。
そうなると、場内は沈黙。だーれも志願しない。さっきまで威勢のイイこと言ってた武闘派連中も。
全員が「仁義なき戦い」の田中邦衛状態に陥るんですね。
するとサタンが言うんですね「ワシが行ってこよう」。この瞬間、猪木もどきから広能昌三にランクアップ!
もう場内は割れんばかりの大歓声。いよ、サタン様男前!アンタになら、尻を求められても仕方ない!と。
この場面はよく分かる。大変リアルであります。
オラオラコラコラ言ってても、じゃあやろうと言われりゃ皆黙る。安全圏だからこその怪気炎。
そこに「オレがやる」という奴が現れりゃ、そら大喝采ですよ。だって自分がやらなくてイイし。
こうしてサタンは地獄を飛び立ち、混沌の領域を超え、地獄の門を開きエデンに向かうんです。
そのついでに、昔の女に出会って、しかも子供までいたことが発覚するんです。
そん時の第一声は「誰?お前みたいなブサイク知らんよ」と、乗り換え済のヒモの様な暴言。ヒドイ、この悪魔!
猪木もどき、広能昌三、ヒモとイロイロな面を見せるサタン様は面白いなあ。


ここまでで、第2章。予想と違ってページが快調に進む。こりゃ最後まで一気に読めるかな?
しかし、第3章でいきなり失速。ここから天国の場面。神様が天使達に説教してんです。
いやあ、つまらんなあ
天国と地獄の話になった場合、面白いのは地獄で天国は退屈なものですからのう。
ダンテの「神曲」だって、有名なのは地獄の場面で、天国の場面なんて誰も知らんでしょ。オレも知らない。
天国の場面ってのは校長先生のお話みたいなもんで、これは構造的に仕方ないことだってのは分かっちゃいます。
でも、ここでくじけそう。なんか読む気がサーっと無くなってきちゃった。
やっぱ、オレに文学は無理なのか?岩波文庫の壁は厚かったか。
いや、ここは当初の神=力道山という認識で立ち向かおう。
なんか偉そうな神様の言葉も、これが力道山の発言だと思えば異常に意味深なものに思えるし。