男の友情

「猛毒動物の百科」を読んだんです。

猛毒動物の百科 (動物百科)

猛毒動物の百科 (動物百科)

これ初版が13年前で、オレが読んだのは今年出た第3版。息が長い。
この本の読者ってのは、職業柄必要だって人もいるだろうけど、多くはただの物好きだと思う。
作り手もそういうことは意識してるはず。ケレンを意識していて、紹介されてる動物の先鋒はホッキョクグマですよ。
これ「え、シロクマが毒を?」というサプライズを狙った演出ですよね。
読んでみると、シロクマの肝臓は高濃度のビタミンAが含まれているので、食べたらイカン!ってことなんで、なんだ爪や牙に毒があるわけじゃないのねとガッカリしたんですが。
こういうことから「読んでもらおう」という意識が感じられて、オレは好感持ちましたね。


しかし、読み進めていくと、そりゃチョット調子にのってねえか?というものが出てくる。
各生物の名称の横にキャプション、というか煽り文が付いてるんですが、最初はごく普通のものなんです。
例えばコブラの項にあるのは「ゾウをも倒す猛烈毒」。まあ、そんなもんだろなってものです。
でも、フグの項の「フグは食べたし命は惜しい」のあたりから雲行きが怪しくなる。
イモガイの項は「イモ、イモってバカにすると」。
待ってくれ。誰もバカになんてしてないよ。そういう発想自体がないってば。
完全にふざけてるだろってのがスナギンチャクの項。煽りは「最強の猛毒イチコロリンの持ち主」。
これはやりすぎだ。さっきまでの好感も薄らいできたね。ちなみに本文にはイチコロリンなんて出てこない。
ただ、これらの煽り文は編集の仕業で、著者には責任がないかもしれんのです。


では著者による本文はどうなのかってことなんですが、これが基本的には真面目だけど、時々刃をちらつかせる。
完全に抜刀したのがアシナガバチの項。これを読むと、煽りなぞ所詮は小手先ですね。
アシナガバチはありふれた生物で、毒があるなんてことだって、今更言うことじゃない。
だから書くことなかったんでしょうね。少年時代に刺された思い出を書いてるんです。
アシナガバチに刺されて、コブのように腫れ上がった。その時どうしたか。引用します。

「オー、痛てー」とコブをさすっていると、刺されなかった田舎の子供が「歯クソをつけると、痛くなくなるんだ」と言って、自分の歯から歯クソをたっぷりそぎとり(金持ちでもないかぎり、当時の子供は、自分も含めて、歯を磨くなどという習慣はなかった)、つけてくれた。「なんて優しいやつなんだ」と感謝し、友情が深まったというわけだ。

こんな友情の深め方、ジョン・ウーだって思いつかん!センス・オブ・ワンダーにも程がある。
それまで大量の猛毒生物の解説を読んだにもかかわらず、一番「毒」という言葉を意識したのはこれでしたね。
世の中には様々な恐怖があるが、一番恐ろしいのは人間だという、ゾンビ映画でお馴染みの教訓を再認識しました。
巻末の著者プロフィールを見ると、生年は書いてないが昭和42年に大学を卒業とあるので、今は60歳くらいか。
この年代の田舎育ちって、こんなにワイルドだったんだろうか。


期待以上のショックを得て、大満足の読書でした。