テキサスのノナー

ノーカントリー」を観たんです。
この映画、語りどころは沢山あります。あの場面の意味は?なんの隠喩?とか。
でも、最大の旨みは誰がどう見たって殺し屋シガーですよ。
演じるハビエル・バルデム、イイ顔してたなあ。
パトリック・マシアス河崎実を交配させたようなこのオッサン、最初はインド人だと思ってました。
インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」に出てきたサッグ教団の司祭に似てるじゃないですか。
あまりにイイ顔なんで、この映画の宣伝ってシガーの顔面で一点突破しようとしてるくらい。
もう「ハロウィン」のマイケルと同じ扱いじゃん。あっちはマスク被ってるけど、シガーは素顔ですよ。
やっぱ男は顔だよなあ。


このシガーは理解不能なキャラと言われ、たしかに変なキャラだけど把握ができないワケじゃない。
この人は「魁!!クロマティ高校」ですよ。
テキサスやエル・パソにはいないかも知れないが、クロ高にはこんな人沢山いるじゃないですか。
・強烈な顔立ち
・俺ルール、それも当人にとっては当たり前のことで、ルールと意識すらないほど強固なものを持っている
・そのルールの先に待ってるのはバイオレンス
・どう見ても変だけど、当人はいたって真顔。
ほら、クロ高の生徒じゃないですか。
シガーって意外と喋るんです。饒舌と言ってイイくらいの時もある。
よくシガーとの会話場面を噛合わない会話とする人がいるけど、噛合わないワケじゃないです。
受け答えはあるし、ちゃんと共通の話題で話し合ってるんですよ。
本当に噛合わない会話ってのは「いま何時?」に対して「マンドリル」って答えるようなのを言うんです。
シガーのそれは違います。ただ、こっちが望む方向に絶対いってくれないだけなんですよ。
望む方向はハッキリしてるけど、そっちに仕向けようとした時にどうしていいのか分からない。
これはシガー先生のキャラにも言えることで、どこが変だってのは一目瞭然じゃないですか。
どこが問題なのかはハッキリしてる。でも当人が自信満々で小揺るぎもしないから、とっかかりが掴めない。
クロ高で言うと、メカ沢や高橋先輩と同じなんですよ。
中盤、シガーが車を爆破して皆がそっちに気を取られてる間に、マイペースで薬を物色するじゃないですか。
あの場面、オレはクロ高をビンビンに感じたんですよ。
それを思えば、ラストだってなんとなくは分かる。
トミー・リー・ジョーンズ演じるエド保安官が、ワシはもうついて行けんと弱気になるじゃないですか。
あれは、前田や北斗の子分が「どうしろってんだよ...」と途方に暮れる場面と同じですよ。


この映画って、ワケの分からないものに張り合う気を失った男が、それによって老いを自覚するってことでしょ。
ちなみにエドが老いを意識したのは、この事件がきっかけではないけど、つい最近のことだと思う。
何度か「この国どうなっちゃったのよ」となげく場面あるけど、あんた今更何を言ってるのって話ですよ。
舞台は80年代ですから、30年前にエド・ゲインがデビューし、その後もチャールズ・マンソン、テッド・バンディ、エド・ケンパーとキラーエリート達が出現済みですから。
エドは保安官ですから、素人衆が「最近おかしい」てなこと言ったら「おかしいというなら昔からだ。オレは異常な事件を山ほど見てきたさ...」と一味違うところを見せる立場でしょ。
それができないのは、異常事態に対抗するだけの気力が無くなったから。
無くなってから世間を見渡すと、なによコレ...てなものが目についてきたってことだと思うんです。
そうなった時に、放ったらかしだった親父を思い出し、初めて共感するのがあのラストってことでしょう。
ここもクロ高じゃん。
仲悪い連中が、ゴリラとかを見て「なんだアレは...」って連帯しちゃう場面沢山あるでしょ。あれですよあれ。


結果はといえば面白かったです。
ただ、もうちょっとシガーの顔面以外にケレンが欲しかったし、なんかキレイ過ぎない?と思ったけど。
テキサスでしょ?もっと泥臭さや血生臭さが欲しかった。血は沢山出るけど、味わいに欠ける扱いだったんで。
まあ、シガー先生の顔を思い浮かべれば、ステキな気分で眠りに就けそうだからイイんです。