ダニエルのヒゲ仕事

かってのポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の作品は、武術で言うとの酔拳や三節棍ですよ。
相手を惑わし、攻撃を受け流し、死角への攻撃を何度も繰り返す技巧派の手法。
それはスゴイことだし感動もするけど、一方で小賢しいってことでもあります。
今回の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は違った。真正面から棍棒を振り下ろしてくるんですよ。
でも雑ではない。語り口は実に丁寧。なので大変分かり易い。単純なんじゃないよ。ハッキリしてるってことです。
まあ、ポールとイーライのサンデー兄弟のくだりはチト分かりづらく、最初は同一人物かと思ったけどさ。


話だけでなく、主役ダニエル・プレインヴューの人格もハッキリしていて理解できるものです。
宣伝でプレインヴューのことを「欲望のモンスター」と紹介してました。パンフレットにもそうある。
しかし、オレはモンスターとは思わなかった。そんな理解不能なしろものとは感じなかったんです。
たしかに愛想はない。とにかく無骨。時には獰猛な一面ものぞかせる。
でも獰猛さを発揮する場面には、なぜそうなったかという説明描写が必ずあるんですよ。
なんの前触れもなく襲い掛かるようなもんじゃない。プレインヴューはれっきとした人間性の持ち主なんですよ。
その表現方法には難がありますがね。スプーンを使うべきところに、バールを突っ込むようなマネをする。
他のやり方なんて知らないし、そもそも知る必要性を感じなかったんだろう。
困難に直面しても、世間に学ぶことはせず我流を通すんですよ。流されたようでもフリだけだし。
ただ、それは外部の敵には有効だけど、内部の味方には通用しない。通用しなければ、もう敵とするしかない。
こう言うと、やっぱモンスターか?だとしても、その怪物性はキングコングのそれで、物体Xではないんです。


あと、理解しやすかったのは、ある人物を思い出したからでもあります。その人物ってのは織田信長
なんだよ信長って...それって何か言ってるようで何も言ってない、プレジデントオヤジの言い草じゃん...
頼む、待ってくれ。たしかにその通りだけど、でも待ってちょうだい。
ホラ、信長って成り上がりだし、ルイス・フロイスによれば合理主義者で神仏の類は徹底的にバカにしてたらしいし、なにより獰猛な一面もあるじゃないですか。
事実かは知らないが、妹のお市が病気になった時に、回復祈願に現れた坊主を「このインチキ野郎!」と焼き殺したことがあると言うじゃないですか。
これかなりプレインヴューでしょ。プレインヴューはボーリング場で大暴れだったけど。
それに、これ見てください。下は信長の肖像画と言われている(確証はなし)ものですよ。

ホラ、ホラ。似てるといえば似てる。少なくともヒゲは生えてるよ。
オレはプレインヴューの人格造形を、織田信長とトニー・モンタナを石油で煮込んで、隠し味にキルゴア中佐を加えたものとして受け止めたんです。
信長はともかく、後の2人は大好物ですからね。そりゃ気にいるってもんですよ。


いやあ、満足しました。昨日は2作はしごで観たけど、両方とも良かった。今月は豊作ですね。


余談ですけど、チョットいい話ありました。
中盤でプレインヴューの弟を名乗る人物が現れるじゃないですか。オレこの時トイレいってたんです。
上映室に戻る時に、画面は見えないけど弟の声だけ聞こえるって状況になったんですよ。
すると聞き覚えのある声が。この変な声はまさか?そう思いながらスクリーンを見ると...
やっぱケヴィン・J・オコナー!「グリード」「ハムナプトラ」で強烈な印象を残したヘナチョコの権現!
今回も期待を裏切らない演技を、惜しみなく披露してくれました(水着ショットあり)。
ああ、感動したなあ。