キャワイイー☆ディストピア

WALL・E/ウォーリー』を観てきたんです。
途中まで観てて思ったのは、『マトリックス』が物凄く穏便に話が進んだらこうなるだろう、でした。
穏便にすんだらどうなるか?結果は大して変わらんよってのが本作だと思ったんですよ。
何もかも機械まかせにした結果、最低限の動作すらとれなくなっている人類ってのは、生体電池にされた人間とそう変わらない。
違いは物語を観ていく上で感じる、悪意めいたものの有無だけでしょ。
観客に積極的に「こりゃヒドイ!」と感じさせようとしてるか、な〜んか嫌な感じでしょと消極的に迫ってくるかの違いだけで。
これはもちろんそう感じた部分があるってだけで、一番思い浮かべたのは3〜40年前のSF映画・小説ですよ。
HAL9000みたいなの出てくるし『ツァラトゥストラはかく語りき』は流れるしさあ。
そもそも『マトリックス』がディストピアSFの範疇に入る作品ですけえのう。
もう1つ思ったのがヒロインロボ、イブの描写ですよ。あれ日本のオタク狙いのキャラそのままじゃん。
寂しい男の子の前に、遠い空からやってくんですよ。超パワーを持ったミステリアスな美少女(だよな?)が。
日本語吹替え版で観たんですが、これのイブの声が平野文に似てるもんだから『うる星やつら』かよ!と思うわけですよ。
ウォーリーはあたると違って浮気しないから、それ以降のフォロワー群に似てるというべきか。
ダーククリスタル』もなんとなく思い浮かべたね。未来の人類とスケクシス族に、やや通じる部分あるし。
話はそれるけど、『ダーククリスタル』が日本のオタク界隈、特にファンタジー方面に与えた影響は物凄く大きいと思う。
あれが無かったら『聖戦士ダンバイン』や『ロードス島戦記』のビジュアルは相当変わってたはずですよ。


しかし話が進みエンディングを迎えた時には違う思いが出てくんですよ。
これディストピアSFどころか、人類オシマイ!サヨウナラ!映画だったんじゃねえの?
ストーリーが終わってから「その後のお話」が走馬灯のように語られるわけじゃないですか。
地球復興の進み具合が絵の進歩になぞらえて語られる、今後は名場面と呼ばれるであろうアレですよ。
アレさあ、記憶違いかもしれんけど、最後の方になると人類の姿なかったはず。ウォーリーとイブ、後は動物だけでさ。
これは主役にスポットライト浴びせたってことかもしれんけど、人類滅んでいなくなっちゃったってことじゃなかろうか。
頑張ったけど、やっぱダメでした!
無理言うなよ。あそこまで荒廃してんだから、もう1回ってもデキることとデキんことあるんだよ。分かるだろチミィ。
抹殺!虐殺! 汝、この門を潜る者、一切の希望を捨てよ!じゃなくて、安らかに滅ぶんだからイイだろう。なあ?
ということだったんじゃねえか?そうとしか思えないよ。


ラストがオレの勘違いだったとしても、この映画は他に不穏なものを抱えてるじゃないですか。
地球脱出計画ってのがさあ。アレ、宇宙船内の豪華さを考えると、全人類が恩恵を受けてたとは到底思えない。
ブレードランナー』みたいに、汚染された地球から脱出できずに終わった人々が相当数いるはずですよ。
復興計画の責任者らしき人物が防毒マスク装着して「逃げろー」とか言ってるくらいだし。
日本沈没』ばりのえげつない事態が、そこらかしこで起こってたはずですよ。
それと、劇中人間の赤ちゃんが出てくるじゃないですか。あれが自然の手段で生まれたかと言えば絶対に違う。
自力で起き上がることすらできなくなってるのに、性行為ができるわけない。
その前に、あの状況じゃ自発的に子作りをしようともしないでしょ。発想自体がないんじゃないか。
なら機械の管理の下、人工的に繁殖させられてるってことですよ。個体数が増えも減りもしないように。
こういうこと言うと、そりゃ大人目線による邪推だ!これは子供映画なのー!という人いるかもしれんですね。
それは違う。たしかに子供を狙った映画だけど、作り手は大人も視野にいれていることは明らかですよ。
でなければ古い映画からの引用が本筋に絡んでくるはずないし、そもそもピクサーって大人目線で映画を作る会社ですよ。
過去の作品がそうでしょ。『トイ・ストーリー』は職場の軋轢の話だし『モンスターズ・インク』は初めて子供を持った戸惑い。
『ミスター・インクレティブル』にいたっては、中年オヤジの話じゃないですか。
本作は、ある種の冷酷さを抱えた話なんですよ。


この映画はウォーリー&イブのフレッシュカップルに感情移入するか、船長ら人類に感情移入するかで印象はまるで違うはず。
前者なら、後味はさわやか。後者ならほろ苦いものが残るはず。
今思ったけど、これ『クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』に近い映画ですよ。
過去にすがったり、現状維持だけの存在はニューカマーにとって代わられる。でも双方とも悪いやつではない、と。
オレはピクサーの映画って、面白いけどのめり込めないことばっかでしたが、今回は違った。
ドライな部分も含めて傑作だと思います。